『大澤の冒険』

大澤は推理小説を書いていた。人間関係の深部をえぐるような小説で人気があった。
大澤は推理小説を書くかたわら、犬の世話をしており、妻はあまり犬の散歩をしないのでげんなりしていた。妻も小説を書いており、互いに原稿をみせあってきそいあっていることもあった。
 
ある日、原稿を編集者に届けたあと妻が誘拐された。置き手紙には、
推理小説のプロットと妻をいただく。わたしも同業者だ」
ときりきりとする内容がその他にもかかれてあった。

 大澤は困り果ててしまった。なにしろ手紙には賊の場所が解らない。しかし、大澤は推理小説を書いている経験から推理をしはじめた。
「手紙のどこかに賊のてがかりがきっとあるはずだ」
手紙は新聞の切り抜きで書かれていた。そこで大澤は手紙の文字を何パターンかにわけて解析することにした。大澤は言語学と哲学にくわしかったのだ。

 解析を続けると或る文字がうかびあがってきた。「ねじこうじょうにいる」と解析の結果から浮かび上がってきた。ねじ工場は大澤のマンションのあるいて15分のところにあった。軽快ながらも重々しいリズムを機械が刻んでいる。

 大澤は急いでねじ工場へ走って行った。妻は作業機械にくくりつけられていた。
「どんなうらみがあって、こんなことをするんだ」相手は黒沢だった。
「どんなうらみ・・・おもいだせないのかあの日のことを」

 大澤は想い出してきた相手は旋盤工のエキスパート。なかなか大澤は腕がなく、旋盤を操ることができなかった。そこに親切な黒沢はてとりあしとり旋盤の操作を教えてくれた。
しかし、大澤はおおきなミスをおかしてしまった。責任は大澤か黒沢にあるのだが、大澤は黒沢にミスをなすりつけてしまった苦い過去があった。

 黒沢は大澤の妻に拳銃をつきつけた。
「あの旋盤は宇宙開発にもつかわれているとくべつな旋盤だった。なのに・・・なのに・・・」
涙をぽろぽろと流しながら黒沢は大澤と大澤の妻にうったえた。

 とおくから、サイレンの音がきこえてくる。警察に事前に携帯で連絡していた大澤はまわりをとりかこまれた。その瞬間、大澤は拳銃をはねとばし、黒沢を取り押さえた。