教育哲学ショート・ショート『地下の鉱脈』

 トシマ・トオルは東京の地下にもぐって存在理由を求める旅に出ることにした。サイユリ・アカネは新しいネームと演劇のシナリオを書いていた。新しいネームは古風でサイユリ・アカネらしい筆づかいで書かれてあった。

 トシマ・トオルの地下を探るような冒険はなかなか進むことができなかった。リックサックにはカントの『純粋理性批判』とパンとナイフがつめこまれてあった。

 トシマ・キョウコはサイユリ・アカネの親友であった。トシマ・キョウコは外務省に務めており、語学が堪能であった。

 トシマ・トオルは深く悩んでいた。作家との交流がしたいが、なかなかそのチャンスにめぐまれない。サイユリ・アカネは文章がうまく、読む人を感動させる光をもっていた。サイユリ・アカネはトシマ・トオルに出版社に出すことをのぞんでいたが、トシマ・トオルは自己の存在理由がふたしかなまま原稿を出すわけにはいかない、とこばんでいた。

 東京の地下は暗く、心の闇を象徴しているようであった。地下の中にトクガワ・イエヤスの宝があるという情報をトシマ・トオルは聞いたのでそれを探すことができれば、ささやかながらも、自己の存在理由を見つけることができるのではないか、とトシマ・トオルはささやかながら思っていた。そして、なんとかトクガワ・イエヤスの宝を見つけることができた。
「これはぼくの宝ではない」

 トシマ・トオルは宝を見つめて地下から明るい空へと出て行った。